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投資の世界には、こんな有名な逸話があります。
Amazon創業者のジェフ・ベゾスが、ウォーレン・バフェットに尋ねたといわれています。
「あなたの投資哲学はとてもシンプルです。誰にでも真似できそうなのに、なぜ誰もあなたのようになれないのでしょうか?」
それに対してバフェットは、こう答えたといわれています。
「誰も、ゆっくりお金持ちになりたいとは思わないからだよ。」
この言葉には、資産形成の本質が凝縮されているように思います。
私たちは、どうしても早く結果を求めてしまいます。
できれば1年で増やしたい。
もっと言えば、半年、3か月、来月には結果が欲しい。
株価が大きく上がっている銘柄を見れば、
「今から買えば、もっと増えるのではないか」
と考えます。
反対に、自分が持っている投資信託が半年、1年とほとんど上がらなければ、
「この投資は間違っているのではないか」
と不安になります。
しかし、ここに資産形成の大きな落とし穴があります。
本来、株式投資において「時間」は、できるだけ短縮すべきコストではありません。
むしろ、
時間こそ、資産を育てるために必要なものなのです。
作物を育てることを考えてみてください。
良い種を選ぶことは大切です。
良い土を用意することも大切です。
水を与えることも必要です。
しかし、どれほど良い種をまいたとしても、
今日種をまいて、明日収穫することはできません。
そこには必ず、
「育つための時間」
が必要です。
雨が降り、太陽が照り、根を張り、茎が伸び、やがて実をつける。
投資も、それと非常によく似ています。
株式投資という航海において、資産を築くための時間は単なるコストではありません。
それは、作物が育つための水や日光と同じ、
資産形成に欠かすことのできない栄養素なのです。
そもそも株式投資とは、企業のオーナーになり、
その成長に参加することです。
企業は一夜にして巨大企業になるわけではありません。
新しい商品を開発する。
工場をつくる。
社員を育てる。
新しい市場へ進出する。
顧客を増やす。
利益を再投資する。
そうした活動を何年も、時には何十年も続けることで、企業価値は少しずつ大きくなっていきます。
投資家が受け取る果実も、その企業が成長して初めて大きくなるのです。
だから本来、
「良い企業に投資すること」と「十分な時間を与えること」は、切り離して考えることができません。
そして、資産形成にはもう一つ重要な力があります。
それが「複利」です。
運用で得た利益を再び投資し、その利益がさらに次の利益を生む。
この繰り返しによって、資産は少しずつ加速度を増していきます。
ところが、複利の力は最初から派手に見えるわけではありません。
最初の数年間は、
「本当に増えているのだろうか」
と思うほど変化が小さいこともあります。
ところが10年、20年、30年と時間が経つにつれて、少しずつ景色が変わっていきます。
つまり複利とは、
時間を与えなければ、その本当の力を見ることのできない仕組み
なのです。
ここで、確定拠出年金について考えてみたいと思います。
企業型確定拠出年金やiDeCoの大きな特徴は、老後に向けて毎月コツコツと資金を積み立て、それを長期で運用していくことです。
派手さはありません。
短期間で大きく儲けるための制度でもありません。
むしろ、その逆です。
毎月一定額を積み立てる。
市場が上がっているときも買う。
下がっているときも買う。
それを10年、20年、30年と続けていく。
まさに、
「ゆっくり資産を育てるための仕組み」
なのです。
確定拠出年金の最大の価値は、この「時間を強制的に味方につけやすい仕組み」にあると思います。
確定拠出年金には、原則として老後まで簡単に引き出すことができないという特徴があります。
これを「不便だ」と感じる方もいるでしょう。
しかし、資産形成という観点から見ると、この不便さこそが大きな意味を持ちます。
もし、いつでも自由に引き出せるお金であれば、
旅行に使う。
車を買う。
生活費に回す。
株価が下がって怖くなったら売る。
そんな誘惑にさらされます。
ところが確定拠出年金は、老後資金として長い時間をかけて育てることを前提にした制度です。
言い換えれば、
私たちが途中で余計なことをしにくくする仕組み
でもあります。
長期投資において、「何もしないこと」は実は非常に難しい。
だからこそ、この仕組みには価値があります。
毎月1万円、2万円、3万円と積み立てていると、
「こんな少額で意味があるのだろうか」
と思う方もいるかもしれません。
しかし、確定拠出年金で本当に重要なのは、1回あたりの金額だけではありません。
毎月積み立てるという行為は、
毎月、未来のための時間を買っている
とも言えます。
今日積み立てた1万円には、20年育つ時間があります。
来月積み立てる1万円には、19年11か月育つ時間があります。
その翌月の1万円にも、また長い時間があります。
この積み重ねによって、何十年後には大きな差が生まれていきます。
だから、
「いくら積み立てるか」
と同じくらい、
「どれだけ長く積み立て続けるか」
が重要なのです。
企業型確定拠出年金を導入する企業にとっても、ここは非常に大切な視点です。
企業型DCは、単なる福利厚生制度でも、単なる節税制度でもありません。
従業員に対して、
「20年、30年という資産形成の時間を提供する制度」
でもあるのです。
仮に40代、50代になってから初めて資産形成を考え始めれば、使える時間は限られてきます。
しかし、20代や30代から毎月積み立てを始めれば、数十年という時間を味方につけることができます。
若い従業員にとって最大の資産は、預金残高ではありません。
これから先に持っている時間です。
だから企業が若いうちから資産形成を始める環境を用意することには、大きな意味があります。
確定拠出年金というと、
「どの商品を選べばいいですか」
という質問をよく受けます。
もちろん、商品選びは大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、
投資を続けられるかどうか
だと思います。
どれほど優れた運用商品を選んでも、途中でやめてしまえば長期投資の力は十分に発揮されません。
逆に、世界経済の成長を信じて、適切に分散された資産へ投資し、それを20年、30年と続けることができれば、時間そのものが資産形成を助けてくれます。
確定拠出年金は、
「投資に詳しい人だけが成功する仕組み」
ではなく、
「普通の人が長い時間をかけて資産を育てるための仕組み」
だと考えています。
実は、長期投資で最も難しいのは、
投資先を見つけることだけではありません。
もっと難しいことがあります。
それは、
何もしないで待つことです。
相場が暴落しても待つ。
周りの人が短期間で儲けた話をしていても待つ。
新しい投資テーマが話題になっても、自分の方針を変えずに待つ。
数年間思ったほど成果が出なくても、企業の成長を信じて待つ。
人間にとって、これは決して簡単なことではありません。
だからこそ、長期投資には「知識」だけでなく、
時間に耐える力
が必要なのだと思います。
最後に資産のサイズを決めるものは、何でしょうか。
投資の知識でしょうか。
銘柄選びでしょうか。
もちろん、それらも大切です。
しかし、それだけではありません。
かけた時間。
投じた時間。
そして、その時間に耐えた意志の強さ。
この3つが積み重なって、最終的な資産の大きさをつくっていくのではないでしょうか。
大きな資産は、一気につくられるものではありません。
企業が成長する時間。
資本が複利で育つ時間。
毎月の積立が積み重なる時間。
そして投資家自身が、暴落や停滞、不安や誘惑に耐えながら投資を続ける時間。
それらが何年、何十年とかけて重なり合ったとき、初めて大きな資産へと育っていきます。
ウォーレン・バフェットの、
「誰も、ゆっくりお金持ちになりたいとは思わない」
という言葉が心に残るのは、おそらく多くの人が心のどこかで「早く結果を出したい」と思っているからでしょう。
しかし、資産形成において本当に大切なのは、
「どうすれば早く増やせるか」
ではなく、
「どうすれば長く続けられるか」
なのかもしれません。
時間を敵にするのではなく、味方につける。
焦って結果を求めるのではなく、企業と資産が育つ時間を待つ。
そして、その時間を耐え抜く。
確定拠出年金は、まさにその考え方を制度として形にしたものです。
毎月少しずつ積み立てる。
長く続ける。
世界経済や企業の成長に参加する。
そして、時間を味方につける。
資産形成とは、
時間をお金に変えていく営みです。
だからこそ私は、長期投資における最大の武器は、特別な情報でも、未来を当てる能力でもなく、
「時間を味方につけ、投資を続けること」
なのだと思います。
そして確定拠出年金とは、
その「時間」を、誰もが資産形成に活かすための仕組みなのです。